熊本へ来てから3日目の8月30日(土)。
窓の外では明け方まで雨音がしていたが、宿を発つ頃には雨は上がっていた。
午前10時半過ぎに高千穂へ行くバスが出るまで少し間があったので、歩き回った。
天気は曇っていて少し肌寒いほど。
四方どちらを見渡しても山が見え、ところどころに霧がかかってみえる。
高森中央の停留所から特急バス 「たかちほ号」 に乗車。
バスは山の中を進んでいき、途中、高森峠というところを越えた。
山と森ばかりで人間の営みが行われる所じゃないように感じられたが、山あいの
土地に小さな畑が幾つも作られているのに驚く。
熊本と宮崎の県境を越えてからは、だんだんと標高が下がっていくのが感じられた。
そして、川や水路など水のある風景が増えていく。
高森から1時間ほどで高千穂に到着。
ここも、想像していたよりずっと拓けた町であった。
道路沿いには、旅館やちょっとひなびた感じの店が立ち並ぶ。
高千穂は日本神話にゆかりのある地らしく、町なかのいたる所に 「神々の里」 の
文字を見つけた。
道の何メートルかおきに、この地にいたとされる様々な神様のエピソードが記されて
いたりした。
高千穂峡までは徒歩で40分程度かかるらしい。
その前にどこかで腹ごしらえをしなければ。
道路の案内表示にあった 『高千穂駅』 に惹かれるようにしてどんどん歩いていった。
『高千穂駅』 に着いてみると、そこには全く人気がなく、駅舎は閉まっていた。
駅のすぐ近くに 『高千穂鉄道株式会社』 の建物があったが、こちらもひっそりと
していた。
近くにいた人や、昼食で入った店の人に 「この鉄道は走っていないのですか?」 と
訊いてみようと何度も思ったが、駅をとりまく雰囲気に、なにか “聞いてはいけない”
ような一種独特の気配が感じられ、尋ねることができなかった。
後で調べてみると、高千穂鉄道は数年前から運転休止・廃止を経て、現在は
別会社が引き継ぐ方向となっているらしい。
その事情の詳細も、いろいろ読んでみたがけっこう複雑で、いま一つよく分からなかった。
(もう走ることのない車輌がひっそりと)
昼食のあとは、歩いて高千穂峡へ。
日差しが強く蒸し暑い天気のせいか、道を歩いている人が殆どいない。
観光地というのに、不思議だった。
途中、高千穂神社に寄った。
樹齢800年という杉の巨木を見上げる。
神社を出て少し歩くと、脇道に高千穂峡へ下りていく林道があった。
林道を進んでいくと、だんだん水の音が大きくなってくる。
頭上からは蝉の音が浴びるように降り注いでいた。
どこからか水が湧いては滴り落ちていくので、道はいつも湿っている様子だった。
勾配も急だし、足元が非常に心もとない。
滑らないように気を遣いながら、ひたすら林道を下っていくと、ようやく視界が開けて
きた。
ここで林道が終わり、道路に出ることができた。
川に架かった橋の向こうには休憩所や土産屋があり、ツアーバスで来たとみられる
観光客が大勢いた。高千穂の町なかに観光客がいないと思ったら、車や観光バスで
直接高千穂峡へ向かうのが普通だったらしい。
(歩いてきた林道を振り返る)
ここからは、川に沿った散策道を歩きながら高千穂峡の眺めを楽しむことができる。
高千穂峡は、阿蘇の火山活動で噴出した溶岩流に侵食されて出来た谷で、五ヶ瀬川が
流れている。
川の両側は、彫刻刀で削ったような形の切り立った崖に挟まれている。
長い年月をかけて作られた自然の地形の面白さは、見ていて飽きることがない。
途中、『とり塚』と銘打った碑が。
『とり塚』 とは・・・・? しかし由来も何も書かれていない。
何かの出来事で命を落とした鳥(?)が沢山葬られている墓なのだろうか。
( ↑『とり塚』 の後ろ姿 )
( ↑ 高千穂峡の代表的な風景、真名井の滝。)
散策道の終点のところに、茶屋が出ていた。
呼び込みのおばちゃんが 「スイーツもありますよ」 みたいな感じで呼びかけてきたが、
かまわず生ビールを注文!
歩き疲れの体に、生ビールの冷たさがしみわたる。
そして、ここからまた延々と歩いて高千穂のバスセンターまで戻り、夕刻、宮崎県内の
延岡までバスに揺られていく。
(つづく)