以前住んでいた社宅でのこと。
昭和中期ごろ(?)に建てられたかと思われるそのオンボロ社宅は、
洗濯機の専用置き場がなかった。
そこで、玄関を入ってすぐの所に洗濯機を置き、排水ホースは、
洗濯のたびに、浴室まで引っ張って排水するようにしていた。
( ↓ 参照)
当時、洗濯は主として夫の仕事であった( ← 今でもそうか・・・)。
夫が何かの折に数日間不在になったとき、久しぶりに自分で洗濯機を
回すことにした。
そのときに、やってしまったのである。
排水ホースを浴室に引き込むのを忘れて洗濯を開始したおかげで
室内は、みるみる水浸しに・・・。
下の階にも水漏れしてしまったようで、慌てて下の階の住人に
謝りに行った。
奥さんに室内を少し見せてもらうと、トイレまでが水浸しに
なっていた。
拭き掃除用に、古バスタオルを何枚か置いて、とりあえず
引き揚げた。
かつてこの社宅に住んでいた人の話で、下の階への水漏れで深刻な
トラブルになった・・・という事例も聞いていた。
下の階の奥さんは、大丈夫ですよと言ってくれていたが、
もしかしてご主人がコワい人で、難癖をつけてきたりしたら
どうしよう。
実はその頃、私は仕事のストレスで疲弊しており、些細なことにも
ナーバスになりがちだったのである。
とにかく、二度とこういう事を起こしてはいけない。
徹底した再発防止策を講じなければ。
そこで私は、以下の対策を考案し、実施した。
① 「排水ホース、ヨシ!」と書いた札を、洗濯機の上方の見やすい
位置に取り付ける。
② 洗濯の際は、その札を見ながら「排水ホース、ヨシ!」と
指差し称呼を行う。(何だか、会社の仕事のノリなのだが・・・。)
しかも、気難しい(かも知れない)下の階のご主人にご心配をかけない
よう、上記の対策をとっている旨を書いたお詫びの手紙を届けることに
した。
数日後、菓子折りをもって改めて謝りにいき、
「ご主人にも読んで頂いて下さい」と、奥さんにその手紙を渡した。
彼女は、あの日は天気も良かったし、外出して帰ってきたらすっかり
乾いてましたよ~と笑いながら言ってくれた。
それ以降、上記対策の実施に努めたおかげで、排水ホースを準備し忘れて
水浸しになる事態は起こさずに済んだ。
(ヒヤっとしたことはあったけれど・・・)
暫くして、下の階の人が引っ越していくことになった。
うちが外出している間に挨拶に訪れたようで、お菓子とメモ書きと
「何かあったらこちらに連絡を下さい」といってご主人の名刺が入っていた。
(当時私は、社宅で集金などの係を務めていたので、気を利かせてくれた
ようだ。)
その名刺を見て、私は「下の階のご主人」が、会社の同期であったことを
知ったのである。(同期とは言え、ほとんど面識はなかったが。)
名刺に記載されていたアドレスを見て、同期M氏にメールを書き、
水漏れの件を改めて謝ると、彼からは
「気にしないで下さい。こちらこそ、わざわざお手紙も頂いて・・・」と
返事があった。
改めて、下の階の住人が良い隣人であった巡り合わせに、感謝の念を覚えた。
・・・その社宅も、用地売却という事情で廃止され、今では、随分マシな
住居に住んでいる。(家賃は高くなったけど。)
洗濯を始めるたびに、排水ホースを延ばす必要もない。
それでも「排水ホース、ヨシ!」の札は、そのままにしてある。
これを見て、私の失態で迷惑をかけたのに、気持ちよく許してくれた
M氏夫妻のことを思い出そう。
社宅を出たのは海外転勤だと言っていたが、無事に過ごしているだろうか。
そして、あの頃に比べれば、私の体調や気持ちの状態も随分良くなった。
ストレスが増大するような事があっても、心の処し方の工夫で、かなり
乗り切っていけるようになった。
そういうことも含めて、人生のさまざまな事象に有難みを感じながら
これからも生きていこう。